第7章 ✼月見草✼
「待て」
足早にその場を去ろうとした私を、謙信様の声が呼び止める。
そして、一言だけ
「よく出来ている」
と言ってくれた。
「……!ありがとうございます」
パタパタと小走りで自室に戻った私はその場に座り込んでしまった。
私に向けられる視線は鋭くて、冷たい。
出会った頃に戻っただけなのに、謙信様の心の中に私はいないと実感させられて胸が苦しい。
思い出さなくてもずっとお傍に……なんて言ったけれど、本当は拒絶されるのが怖かった。
だからこそ、そんな謙信様に羽織を褒めてもらったのはどうしようもなく嬉しかった。
(つまらないって言ってる割には元気がなかったし…やっぱりまだ本調子じゃないんだろうな)
それでも記憶喪失以外に体に残ってしまう後遺症は無かったのは不幸中の幸いだろう。
無意識のうちに色々と思い詰めてしまっていたのか、久しぶりに謙信様の姿を見ると力が抜けてしまった。
そのまま私は眠ってしまい、起きた頃には月が空に浮かんでいた。
それからの日々は、今自分が出来る事を精一杯やった。
傷が深いせいであまり激しい運動は出来ない。
だから、謙信様の身の回りの世話でも……と思い女中のように謙信様のお手伝いをした。
だけど、全てが最初のように褒められるはずもなく。
(これで良いかな……)
「とてもお上手です。流石は結様ですね」
目の前でにっこりと笑う女中さんの前で色とりどりの花を見つめる。
謙信様のお見舞いに、女中さんに習って生け花を生けてみた。
謙信様自身が特別花が好きという事は無いけれど、お花でもあれば少しは気分転換になるだろう。
……そう思ったのに