第7章 ✼月見草✼
§ 結Side §
絶対安静で自由に城の中を動くことも出来ない間の暇つぶしに作り始めた羽織が遂に完成した。
「うーん……受け取ってくれるかな…」
出来上がったばかりの羽織を広げ、悩むこと数十分。
私はやっとその羽織を持って立ち上がった。
送り先は勿論謙信様。
記憶が無いと分かっていたはずなのに、私は当たり前のように謙信様の羽織を作っていた。
他の人へ送ろうかとも考えたけれど、白と淡い水色の羽織は、信玄様のイメージには合わない。
幸村も佐助君も違う……。
やっぱり、送るにふさわしいのは謙信様だけだった。
「あ……謙信様に会う時はこれも外さなくちゃ……」
耳に触れると、鶴が小さく踊る。
同じピアスを付けていたら謙信様に勘付かれてつまうかもしれない。
ピアスは外して引き出しの中に片付けた。
右耳に僅かな重みを感じないことがもどかしい。
羽織を大事に抱えて謙信様の部屋へ向かうと、謙信様は文机に向かっていた。
「まだ安静にしていないと……」
「戦にも行けないと言うのに何もしないなどつまらん」
戦に行っても私の為に帰ってきてくれる謙信様はここにはいない。
戦が命とも言える今の謙信様にとって、何もせず安静に…というのはさぞかし退屈な事だろう。
「要件は何だ。手短に言え」
素っ気ない返事に心が沈みそうになってしまうけど、今はそんな表情をしても甘やかしてはくれない。触れてはくれない。
「この羽織を謙信様に、と思いまして……」
「俺に……?」
「あ……記憶を無くされる前に頼まれていた物で…」
羽織を謙信様に手渡すと、謙信様はその羽織をまじまじと見つめた。
「これは全てお前が作ったのか?」
「はい」
何もおかしなことは言っていない……と思う。
だが謙信様は私を見て眉を顰める。
「いつからここで働いている」
「え……っと…一年ほど前でしょうか」
咄嗟にそう答えると、謙信様は「そうか」と呟き一人で何かを考え始めてしまった。
「では私はこれで失礼します」