第7章 ✼月見草✼
女中さんに見送られて、謙信様へ花を届けに行ったまではよかった。
でも、謙信様から出た言葉は私が期待していた物ではなかった。
「俺には花を愛でる趣味は無い。それとも満足に動けない俺を馬鹿にしているのか」
「いえ、そんなつもりは……」
「ならば俺の事は放っておけ。余計な気遣いは要らん」
「あ……」
それっきり、謙信様は私と目を合わせてくれなかった。
(どうしよう、これ……)
腕の中の綺麗な花たちに目を向ける。
折角綺麗に出来たんだから、自分の部屋に飾っておくのもったいない。
それに、これを見ていると先程の事を思い出してしまう。
(他の人に贈ろうとしたものなんて嫌かもしれないけど……信玄様なら貰ってくれるかな)
仕方なく、生け花を持って信玄様の部屋に行く。
受け取ってもらえなかったその時は、私の部屋に飾ろう。
「信玄様、いらっしゃいますか?」
すると、謙信様とは対照的に優しい声を響かせ、部屋から出てきた信玄様が私を出迎えた。
「結か。入ってくれ」
「失礼します……」
信玄様は流れるような動きで私を部屋に招き入れると、生け花を見て微笑んだ。
「綺麗な花だな。結が生けたのか?」
「はい」
「謙信にぴったりだ」
「それが……受け取ってもらえなくて」
乾いた笑みを浮かべると、信玄様はその生け花を私から取り上げた。
「じゃあ、これは俺のものだな」
「えっ……」
「謙信に受け取って貰えなかったから、俺にくれるんじゃないのか?」
「嫌じゃないんですか……?」
確かに信玄様にプレゼントしようと思っていた。
だけど、謙信様に受け取って盛らなかったからという理由で贈り物をされても正直いい気はしないだろう。
「誰にでも同じことを言うわけじゃないさ。結が謙信をどれだけ想っているか知ってるからな。その気持ちを無駄にしたくないだけだ」
それに綺麗だしな、と言って、どこに生け花を飾るか悩み始める信玄様。