第7章 ✼月見草✼
「それに、今の謙信様に私の事を伝えても信じてくれるかわかりません」
今の謙信様は伊勢姫との過去に縛られ、女嫌いとして知られる上杉謙信。
そんな彼に、貴方の恋仲ですと言ったところで敵の間者だと言われる可能性も少なくない。
「何より……私はまだ弱い。謙信様のお傍に居ては今回のように謙信様を傷つけてしまう。貴方達の大切な主君を……」
謙信様を傷つけてしまってごめんなさい、と告げると、それまで静かに聞いてくれていた家臣達はこれを揃えてこう言った。
「それは違います、結様。貴方がいるから謙信様は強くあれるのです。それだけは勘違いなさらないでください」
優しい言葉に、涙が溢れそうになる。
言葉に詰まってしまう私の背中を、信玄様はずっとさすってくれていた。
「半分は私の我儘です。ですがどうか……お願いします。私の事はこの城で働く針子だとしてください」
頭を下げると、暫くの間沈黙が場を包み込んだ。
「結、顔を上げなさい」
信玄様の声に反応して頭をあげると、信玄様は優しく私に微笑んでくれる。
「君がそう言うのなら俺は協力しよう。ただ辛くなったらすぐに言う事。それが条件だ」
その声に、俺も、私も、と賛同の声が上がる。
「……分かりました。ありがとうございます……」
この時から、私はこの城で働くただの針子となった。