第6章 ✼弟切草✼
「結。間に受け止めないで」
家康が、私を抱き締める力を強くする。
だけど私はその体をそっと押し返した。
「ごめん、家康……私は大丈夫」
家康が私を心配してくれているのは痛い程伝わってくる。
だけど、謙信様の目の前でこんなことはしたくない。
「結……まさかこのままここに残るとか言わないよね?」
まさか、と言いながらもきっと家康は私の答えを知っている。
「謙信様の傍に……お願い」
私の為に全てを滅ぼそうとする謙信様を見て、誰かが言った。
謙信様の愛は狂っている、と……。
そうかもしれない。
だけど………………
「誰に何を言われても良い。私は謙信様が居ないと生きていけない……」
謙信様が狂っているならば、私も狂ってしまっているのだろう。
こんなにも謙信様を愛してしまった。
確かに私の存在が謙信様を傷付け、不幸にしてしまうかもしれない。
でも、せめて目を開けるまでは傍に居させて欲しい。
「目が覚めても何があるか分からないんだよ。体が動かなくなってるかもしれないし目が見えなくなってるかもしれない」
「それでもいいよ」
頑なに帰ろうとしない私に、家康は大きなため息をついた。
そして、小さな笑顔を浮かべる。
「分かった……俺はもう帰らないといけない。また来るから…辛くなったらすぐ帰ってきて」
「ありがとう、家康……」
「言っとくけどあんたも絶対安静だから。絶対に無理な真似はしないで」
「分かった」
家康が部屋から出て行くと同時に、天井からかたっと音がした。
「目が覚めたんだね、結さん」
「佐助君……流石にこの状況で天井から来られると完全に不審者だよ……」
「ごめん。ちょっとだけ様子を見に来たら家康公と話してたから」
佐助君は慣れた手つきで床に降りると、真剣な目つきで私に問いかけた。
「単刀直入に聞くけど……君と謙信様を刺したのは芝姫?」