第6章 ✼弟切草✼
家康は出来るだけ優しく言っているつもりだろうけど、つまりそれは謙信様が庇ってくれなければ死んでいた、という事だ。
「謙信様は…?」
震える声で問いかけると、家康はばつが悪そうな顔をして目線を私から逸らしてしまう。
「傷口があんたより深い。一応急所は外してるけど毒も回ってるかもしれない。目を覚ますかどうかは分からない」
「…っ……」
「目を覚ましたとしても何か後遺症が残るかもしれない」
傷口よりも、心の方がずっと痛かった。
「ごめんなさい……」
「謝って謙信様が目を覚ますの?」
私の問いに答えたのは家康ではない。
襖が勢いよく開かれ、声の主は私の頬を思いっきり叩いた。
「何で謙信様がこんな目に合わなきゃいけないのよ⁈貴方なんか庇うから…!貴方が死ねば良かったのよ!!!私の想いだけじゃなくて謙信様まで奪わないで!!!!!」
「お待ちください芝姫様……!」
「ちょっと!怪我人に何してんの⁈」
叩かれた頬が痛い。
けれど、こうされて当然だった。
「その綺麗なお顔で謙信様に気に入られて、守られて。それで満足?」
家康が私を守るように抱き寄せるけど、芝姫様の言葉の刃は私の胸をどんどん突き刺していく。
「謙信様を不幸にしてるのは自分だっていい加減気付いてよ!弱くて何も出来ないくせに。結局貴方も伊勢姫と変わらないのね」
「それ以上は芝姫様でもお許しすることは出来ません……!」
芝姫様が家臣の人に連れられて行ってからも、芝姫様の言葉が頭から離れなかった。