第6章 ✼弟切草✼
「うっ…………っ…」
「結?!結……!」
頭に鈍い痛みを感じて目を開く。
「…………」
(どこだろう、ここ……)
視界がぼやけてここがどこか分からない。
私はどうしていたんだっけ。
芝姫様と二人で城下に出掛けて、芝姫様の体調が悪くなってしまって……それで…
「刺された……」
口に出せば、記憶が鮮明に蘇ってきた。
私が誰かに刺されて、それを庇って謙信様も刺されたんだった。
「謙信様は…っ…ぁ…!!!」
体を起こそうとすると、脇腹に激しい痛みを感じて誰かの腕の中にに倒れ込んでしまう。
「安静にして、結」
優しく褥に戻されて、視線を上げるとそこにいたのはよく知った顔だった。
「家康……」
「あんたを迎えに春日山城に来たら刺されたって言われるし全然起きないし……三日も目を覚まさなかったんだよ、あんた」
ため息をつく家康の顔にはうっすらと隈が浮かんでいる。
きっと心配してくれていたんだろう。
「ごめん、家康……」
「もういいよ。謝ったってしょうがないしあんたは悪くないでしょ。上杉謙信なら隣に居るよ」
そう言って家康は私の体をゆっくりと起こした。
私の横には謙信様が長い睫毛を伏せて静かに眠っている。
「謙信様……」
「あんたと同じようにずっと眠ってた。……まだ目は覚めてない」
私に何かあると真っ先に頭を撫でてくれる手が、今は力なく畳の上に置かれている。
「ごめん。辛いとは思うけど今からいう事、ちゃんと聞いてて」
「うん……」
「おそらく、二人を刺した短剣に毒が盛られてた」
「毒……?」
自分の体の中に毒が入っているかもしれない。そう思うと傷口が更にズキズキと痛んでくる気がする。
「毒は致死量じゃなかったけど刺されたこともあってずっと危険な状態だった。多分……あと一回刺されたたら確実に死んでた」