第6章 ✼弟切草✼
「この男は元々死のうとしていたのよ。それを私が拾っただけ。一夜を共にする代わりに貴方を殺してもらうの」
「ま、だから俺は誰に何を言われても姫様の事は話さねぇし見つかったら直ぐに死ぬってわけだ」
(謙信様……)
もう意識が持たない。
謙信様と過ごした日々が走馬灯のように駆け巡る。
「あぁ、でも…綺麗な顔に傷一つくらいつけてあげたい」
その声に反応するかのように、短剣が私の目の前でギラリと光る。
「や……け、んし…さまっ……」
「じゃあな、嬢ちゃん」
勢いよく振り下ろされた腕。
「……っ!!!」
これから来る痛みを想像して目を閉じたが、それは一向に来ない。代わりに、私の上に何かが倒れ込んできた。
「いやああああっ!!」
芝姫様の叫び声が聞こえる。
必死に目を開けて体を少しだけ起こすと、そこには黒い羽織を着た男性が倒れていた。
力なくその手が私の手を握る。
見間違えるはずない。私を守ってくれた人……
「謙信様………」
「結……またお前をっ……ごほっ、ごほっ…!」
言い終わらないうちに謙信様の口から出てきたのは鮮血。
謙信様が私を庇って刺された。
「いや、いやよ……こんなつもりじゃ無かった!!!!」
芝姫様が泣いている。
謙信様が倒れている。
私だって泣きたい。今すぐ抱き締めたい。
なのにこの体は動かない。
鉛のように重くなって、だんだん瞼が重くなってくる。
「貴方のせいよ!!!!!全部!!!!!!」
完全に意識を手放してしまう前、そう言ったのが聞こえた。
ああ、そうだ……
私が弱いせいで、謙信様を傷付けた。
何も出来ない、弱い私のせいで。