第6章 ✼弟切草✼
「だから謙信様にまた恋仲が出来たって噂を聞いた時は信じなかったわ」
芝姫の視線が私に向けられる。
「でもその噂は本当だったし……貴方に八つ当たりをした事はに申し訳ないと思ってるの。ずっと……お慕いしていたから」
ごめんなさいね、と言う芝姫の姿に何も言えなくなってしまう。
ずっと怖い人だと思っていたけれど、この人もただ謙信様が好きなだけなんじゃないか。
しかも最愛の人を二度も他の女に取られてしまったのなら、ここまで愛がこじれてしまうこともしょうがないのかもしれない。
(でも……それでも謙信様を渡す事は出来ない…)
私だって、謙信様が居なければ心が壊れてしまう。
そう思うほどに彼を愛してしまった。
「芝姫様……」
そっと肩に触れようとした時、芝姫様の体がぐっと傾く。
「……っ?!」
倒れ込んできた芝姫様の体を咄嗟に受け止めると、芝姫様は苦しそうに荒い息を吐いていた。
「芝姫様……?!」
「ごめんなさいっ……ごほっ…いつもの事よ…ごほっ……」
「でも……」
「薬を持っているから…ごほっ、あそこまで連れて行って頂戴」
芝姫に言われた通り、人気のない路地に芝姫様を連れて行くと、芝姫様はその場にしゃがみ込んでしまった。
「ごほっ、ごほっ……」
「やっぱりお医者様に診てもらった方が……!」
そこまで言った時、脇腹の辺りが急に熱くなった。