第6章 ✼弟切草✼
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「悪いな、結」
「仕方ないですから」
安土へと帰る日、謙信様と城下へ出掛けようと約束をしていたけれど、謙信様に急な軍議が入ってしまった。
「行ってくる。会えない時もお前を想っているよ」
そう言うと、謙信様は唇に触れるだけの口付けをくれた。
「さて……私は何をしようかな」
謙信様が居なくなり、歩きながら今日の予定を考える。
反物を買いに行こうか……と考えた時、後ろから呼び止められた。
「結さん」
振り向いた先に居たのは芝姫。
正直あまり会いたくはない。必死にそれを隠していつも通りに振る舞うと、芝姫は私に向かってにっこりと笑った。
「今、お暇かしら?私と城下へ行かない?」
「城下へ……?」
「簪が欲しいんだけどこの城下の事はよく知らないから」
「はい、わかりました……」
断る事も出来ず、二人で城下へ出掛けることになった。
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「私ね、別に父上に言われたから謙信様に迫ってるわけじゃないのよ」
城下を歩きながら、芝姫が静かに語り出す。
そこには、初めて会った時のような鋭い視線は無かった。
佇まいも、遠くを見つめるような表情も、お姫様そのもの。
「謙信様か伊勢姫と恋仲だと噂が立っているときに一度会った事があってね。一目惚れだった」
最初は伊勢姫か居るからと諦めようとしたらしい。
でも、その矢先伊勢姫は死んだ。それから謙信様は女嫌いとして有名になって会うことすら出来なかったらしい。