第6章 ✼弟切草✼
§ 結Side §
「謙信様~~!」
次の日も、そのまた次の日も芝姫様は私など見えていないかのように謙信様にぴったりとくっついていた。
「はぁ…………」
「謙信様、大丈夫ですか……?」
元々忙しいのに加えて、女性に付きまとわれては謙信様も精神的に疲れ果てていた。
何度か私が止めるように言おうとしても
「あら、貴方は織田家ゆかりの姫と言ってもまだ謙信様の正室ではないのでしょう?自分より身分の高い者に命令するつもり?」
と言われてしまった。
「芝姫は明日帰る事になっている。それまでお前も我慢してくれ」
「いえ…私よりも謙信様のほうが心配です……」
「芝姫が帰ったら二人で安土の美酒を呑みに行こう」
「はい」
(私に出来る事はないのかな……)
そう考えて私は、壁に背を預けてため息をつく謙信様の頭を自分の膝の上に倒した。
「結……?」
「私も明日安土へ帰らないといけないので……少しでも謙信様を……その、癒したくて……」
自分で言いながらも照れてしまうと、謙信様は少しだけ笑って目を閉じた。
「お前の傍は安心する」
少しして謙信様の静かな寝息が聞こえてくる。
普段隙を見せない謙信様だからこそ、こういう時に可愛いとすら思ってしまう。
「私が……現代から来た普通の女の子じゃなくて立派なお姫様だったら芝姫も諦めてくれたのかな……」
ないものねだりをしながら謙信様の額にそっと口づける。
目を閉じると、あっという間に私も夢の中へと入っていった。
*。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+*