第6章 ✼弟切草✼
「結以外を傍に置く気は無い。帰れ」
「待ってください……!」
「最後に一つだけ言っておくが……俺の愛する女を傷付けたのなら女であろうと容赦はしない」
「謙信様!」
芝姫様の返事も聞かず、謙信様は私を連れて踵を返す。
人目のつかない縁側で腰を下ろした謙信様は、ただ黙って私を抱きしめた。
抱きしめてくれる直前に見えた謙信様の顔は、これでもかと言うくらい憎悪に満ち溢れていて、何も声をかけることが出来ない。
(物凄く機嫌が悪いな……)
少しの間そうしていると、謙信様が静かに口を開く。
「すまない、結。お前に辛い思いをさせた」
「いいえ。芝姫様は何も嘘は言っていませんから」
「これまでは何とか耐えていたつもりだったが……お前のことを言われると我慢ならん。女であろうと許すことは出来ない」
「私の事をそこまで考えてくださってありがとうございます」
謙信様ははっきりと芝姫様を拒絶していたけど、きっとそれでも諦めない。
私が強く在らなければ。と心にそっと言い聞かせて、謙信様の温もりに身を委ねた。
「部屋へ戻るぞ、結。続きがまだだ」
「続き……?」
「口付けの続きだ」
言葉の意味を理解した途端に体が熱くなっていく。
「おいで、我が姫」
優しい笑みを浮かべた謙信様は私を横抱きにして自室へと戻っていく。
(この顔は私だけが知ってる……芝姫様は知らない)
そんな独占欲と優越感に包まれ、謙信様の体に顔をすり寄せた。