第6章 ✼弟切草✼
「んっ、ああっ!!」
「結っ……」
「あい、して……ますっ…」
「俺もだよ。お前だけだ」
「他の方のっ…とこには行かないで……っ…」
「当たり前だ」
夜の暗闇に、溶け込んで愛を確かめ合う恋人たち。
女は男の首にしがみ付き、甘い声を漏らす。
いつもは爪を立てまいと必死になっているのに、この時は快楽に身を委ね、白く逞しい背中に赤い傷を付けた。
一方、少し離れた所にある城。同じ暗闇の中で不気味に笑う女が一人。
「貴方から全てを奪ってあげるわ。愛する人も、心も、その美しさも全て」
女が望むものは相手の全てだった。
愛する人が居るのなら、それすらも奪ってやろう。
心が繋がっているのなら、赤い糸を切って粉々に壊してやろう。
美しい女だと言うなら、顔に傷を付けてやろう。
「まあ謙信様はあの女から離れようとしないでしょうけど……逆に脅しの材料に使ってしまえば不本意にでも私のところに来るわ」
奪うためなら自分がどうなってもいいと覚悟を決めたおぞましい憎悪は直ぐそこまで迫っていた。