第6章 ✼弟切草✼
結の乱れた着物を直してから襖を開くと、一人の家臣が慌てたように耳打ちをしてきた。
「芝姫様がお見えになっております」
「はぁ……またか」
結の前だということも忘れて、思わずため息をもらす。
「どうかしましたか?」
そんな俺を心配してくれたのか、結が着物の裾をきゅっと握ってくる。
(どちらにせよ話すつもりではあったからな。今話しておくか)
芝姫を少し足止めしておくよう家臣に命じ、俺は口を開いた。
「少し前から厄介な姫が来ていてな」
「厄介……?」
「側室で構わないから俺の妻になりたいと言っている。俺が何度断っても今のように押しかけてくるのだ」
「えっ……」
一気に結の顔が青ざめていくのが分かる。
そんな結の額に口付けをしてから、その細い腰を抱き寄せた。
「そんな顔をするな。俺が妻にとる女はお前だけだ。勿論愛するのも、な」
「ありがとうございます……」
結の体の力が抜け、小さな頭が俺の胸に寄りかかる。
こんな時でも結は我儘を口にしない。
たまには自分以外に触れないで欲しいとでも言ってくれてもいいものだ。
と、そこに結ではない女の声が響いた。
「私は謙信様に逢いに来たのよ。早く会わせてちょうだい……!」
結を安心させるように、腰に回した腕に少し力を込めながら部屋の外へ出ると、そこには家臣に止められながらもずかずかとこちらに向かって歩いてくる一人の女がいた。
そして俺の姿を見つけると、先程までの怒鳴り声はどこへやら、気持ちの悪い猫なで声で言う。
「謙信様〜!お会いしたかったです〜♡」