第6章 ✼弟切草✼
§ 謙信Side §
「謙信様、結さんと秀吉公が来てますよ」
「結が?」
縁側で一人空を眺めていた俺の横に、佐助がゆっくりと腰を下ろす。
「織田軍が近々戦に出るらしく、その間結さんを預かってほしいそうです」
佐助が口にしたのは、ここ最近領地を広げている大名の名前だった。
いつもより手ごわい相手となれば、城が安全とも言い切れない。それを考えて結を俺に預けたのだろう。
「ですが織田軍があの程度の大名に隙を見せるとも思いませんし……多分信長公なりの優しさなんじゃないですかね」
「あの魔王がか?」
「理由を付けてでも、結さんを謙信様と一緒に居させてあげようとしてるんですよ、きっと」
「どうだかな」
あの男の考えている事は俺にも分からないし分かろうとも思わない。
「結を迎えに行く。豊臣秀吉はどうした」
「流石に戦前で少し気が立っているみたいで、今敵将の顔なんて見たら切りかかってしまうって言って先に帰っていきましたよ」
佐助と話しながら歩いていると、俺の部屋の前で結が誰かと話しているのが見える。
(あれは確か甘粕景持と言ったか)
結が現代にいる間に新しく家臣になった者で、実力も優れている。
だが、今結と話している景持の頬は少し赤くなり、どう見ても結に好意を寄せているようだった。
(恐らく本人は結に恋心を抱いていると気付いていないだろうな)
武士として忠実に生きれば生きるほど他の事が見えなくなってしまう。自分の恋心にも気付かずただ結を目で追ってしまっていた自分の事を思い出した。