第6章 ✼弟切草✼
私のために開いてくれた宴は私が居ない期間が一年もあったことが嘘かのように、一年前と変わらない笑顔で溢れていた。
「しばらくはこっちにいるんだろう?」
「うん。定期的に謙信様には会いに行くけど……」
「そうか。こうしてお前が安土で暮らすのももう少しだと思うからな。思う存分楽しんでくれ」
「謙信は直ぐにでも祝言を挙げてお前をかっさらっていくと思ってたんだけどな」
「うん……きっと私の気持ちを大切にしてくれてるんだと思う」
皆と当たり前のように謙信様の話を出来るのが嬉しくて、はにかみながらそう言うと、光秀さんが小さく笑った。
「相変わらず仲が良いようだな。最近謙信が丸くなったという噂が安土でも越後でも流れているらしいぞ」
謙信様が優しくなったのは私が一番感じている事だった。
いつでと私の気持ちを考えてくれている。
すると、三成くんが何かを思い出したように声を上げた。
「その噂、私も聞いたことがあります。なんでも上杉謙信の女嫌いが治った……とか」
「流石にそれは無いだろう。噂ってもんは直ぐに大きくなるからな」
秀吉さんがため息をつくと、静かにお酒を飲んでいた信長様が私を見つめて言った。
「だがその噂のせいで面倒事も起きているようだがな」
「面倒事……ですか?」
「謙信が女嫌いでは無くなったと信じて自分の娘との縁談を持ちかけている大名もいるらしいぞ。これは噂ではなく真実だ」
「え……」
考えてみれば謙信様は容姿も優れていて強さもある。
今まで女性に言い寄られてこなかったのも謙信様が女嫌いだと知れ渡っていたからなのかもしれない。
不安を覚える私とは対処的に、信長様は面白そうに右の口角を上げて笑う。
「まあ全て断っているらしいがな。俺が愛する相手は一人しかいない、と言っていると聞いた」
「……っ…」
広間にいる人の視線が一気に私に集まり、恥ずかしくて下を向いてしまう。
(離れている間もちゃんと私を愛してくれてたんだ……)
それでも気になるものは気になる。
噂の事は次に謙信様に会った時に聞いてみよう、と心にしまい、私がいない間の話を聞いたりして宴は盛り上がった。