第5章 ✼風信子✼
「んんっ……はあっ……」
ゆっくりと謙信様自身を受け入れると、謙信様の顔が快楽に歪んだ。
「あぁ……いい…っ…………」
私で感じてくれていることを実感させる低い声に、私の中がキュッと締まる。
ぴったりとくっついた肌に伝う汗もどちらのものか分からない。
畳に写る二つの影はお互いを求めあって共に動く。
快楽でおかしくなってしまいそうだ。
いや、もう既におかしくなっている。
「もっと……俺に溺れろ…!」
理性など何処にもない。
いつだってそうだった。最初こそ恥ずかしいと抵抗をして声を押し殺すものの、最後には口を押えていた手は謙信様に巻き付いている。
愛という名の毒に侵されて何が何だか分からなくなってしまう。
一年間離れていても、また肌を重ねれば毒は直ぐに体中に回る。
「謙信、様っ!もう…っ……」
「ああ、一緒におかしくなってくれ……————」
「………………~~~ッッ!!」
「く…っ……!」
最後の叫びは声にもならなかった。
掠れた声が出るだけで、その代わりに体は大きく跳ね上がる。
「結……」
「はいっ……」
掠れた声で顔を上げると、汗で乱れた前髪をかきあげた謙信様と目が合った。
「…………!」
その美しさに、息を呑む。
鍛え上げられた肉体に汗を垂らしながら、艶っぽい瞳でこちらを見つめる謙信様から目が離せない。
(私だけが知ってる謙信様……)
戦では見せる事のない表情に胸が高鳴った。
と、思えば次は眉を下げて私に抱きついてくる。
「結、結。俺の結」
何度も何度も名前を呼んで口づけを交わしては、体に痕を付けていく。
(どうしよう……好きすぎてどうにかなってしまいそう)
「大丈夫です。私は此処にいますよ」
褥に寝っ転がって目を合わせると、どちらからともなく笑みが零れた。
「幸せだ」
「私もです」
「やはりお前のいない幸せなど考えられない。俺の元へ戻って来てくれてありがとう」
ごめんなさい、と言いそうになったけれど今この人が望んでいるのはそんな言葉ではない。
「待っていてくれてありがとうございます」
「愛しているよ」
「私も愛しています」
心地の良い手に頭を撫でられ、私はそのまま眠りに落ちて行った。