第5章 ✼風信子✼
§ 謙信Side §
目を開けると、そこには愛しい女の姿。
頭を撫でると猫のように俺にすり寄って来る。
「けん…しん様……」
俺の夢を見ているのだろうか。
幸せそうに笑う結に、俺の口からも笑みが零れた。
この一年で俺が女嫌いでは無くなったとか、優しくなっただとか意味の分からない噂が流れ、自分の娘との縁談を持ち掛けてくる大名まで現れた。
城まで押しかけてきた娘もいたが、結以外の女など目に入らない。
俺は目の前で寝息を立てるこの女に一生を捧げようと決めたのだ。
「ん……っ…」
頬を撫でれば、身じろぎをして目を擦る結。
「おはよう、結」
「おはようございます……」
額に口づけをすると、結はくすぐったそうに優しく笑った。
「幸せですね」
「そうだな。お前が居てこその幸せだ」
「私も……謙信様と一緒じゃなきゃ幸せになれません」
いつもよりも日の光が暖かく思える。
「安土の者も心配しているだろう。お前と少しでも長く居たいが顔を見せに行ってやれ」
「はい。ありがとうございます」
結の為に口ではそう言ったが、結が一秒でも隣にいない生活はそろそろ限界だった。
(そろそろ迎えに行かなければならんな)
そうなれば確実に首を突っ込んでくるであろう魔王の姿が脳裏をよぎる。
二人で着替えを済まし、お揃いの耳飾りに触れる。
「やはり着物も似合っている。綺麗だ」
「ありがとう…ございます……」
着物は結が居ない間に似合うと思って買っていた物だった。
顔を赤らめる結を見ると、やはり買っておいてよかったと思える。
「さあ、行くぞ。結」
「はい……!」
いつもより良く眠れたお陰で一刻ほど遅い朝。
確かな幸せを感じながら、愛する女の手を取って一日が始まった。