第4章 ✼勿忘草✼
「伊達政宗から聞いた。叶多はお前の恋仲だった男だと」
「……黙っていて…すみません」
「言っただろう。お前を責めている訳ではない。ゆっくりでいいから何があったか話せばいい」
「はい……」
ぽつり、ぽつりと話し始めると、謙信様は静かに私の話を聞いてくれた。
言葉に詰まってしまった時は背中をさすってくれた。
きっと叶多の話なんて聞きたくないだろう。私だって謙信様から伊勢姫の話を聞くのはあまり好きでは無いし、謙信様もそれを分かっている。
それなのに、謙信様は自ら聞かせてくれと言ってくれた。
全てを話し終えた時、謙信様は
「お前だけが悪いのではない。俺も、叶多にも非はある。だから泣きたい時は泣けばいい。そうしなければお前の涙が枯れてしまうだろう」
と言ってくれた。
「どうして…私はこんなに待たせてしまったのに…そんなに優しくしてくれるんですか…」
「どんな結でも愛しているからだ。俺はいつも人の何かを奪ってばかりだったからな。たまには奪われ待たされるくらいがちょうどいいだろう」
「けん…し…さま…っ…」
また涙が零れてしまった。でもこれは堪えていた涙じゃない。自然に零れ落ちた涙だ。
「明日からはお前を独占できそうに無いからな。今だけは俺のものでいろ。明日は佐助たちに譲ってやる」
「はい。ずっとお傍にいます」
「それと確認だ。仮にも他の男の話を聞いた後だからな」
「……?」
「お前が一番愛している男は誰だ」
(そんなの……考えなくても答えは決まってる)
「謙信様です。謙信様を…愛しています」
「ならば良し」
優しい口付けに胸がきゅっと締め付けられる。
ずっと、泣かないようにと逸らしてきた謙信様の顔はとても優しかった。