第4章 ✼勿忘草✼
夢を見た。
いつもは暗闇の中で私が泣いている夢。
でも今日は違った。
いつしかの日常だった風景。
二人だけで、夜の静かな縁側でお酒を飲みながらたわいもない会話をしていた日々の記憶。
「近々有名な美酒が手に入る予定だ。手に入ったらまず最初にお前と杯を傾けよう」
「本当ですか?楽しみにしていますね」
これは確か叶多が来る前の日にした会話だった。
けれど、結局その日は来ないまま私は現代に帰ってしまった。
この時の私はあんな事が起きるなんて知らずに、幸せな日常の中の小さな出来事としか捉えていなかった。
何度も何度も夢にうなされた。
どれだけ泣きたくても、どこからか声が聞こえてくる。
『どうして自分のせいなのに貴方が泣くの?』
たった一言。でもその言葉は私の心に重くのしかかった。
まただ。さっきまで見ていた幸せな思い出は消え失せて、再び悪夢が戻ってくる。
『悲劇のヒロインぶって泣く資格は無いでしょう?不幸にしたのは謙信様だけじゃない。叶多だって自分を押し殺してこんな事をしたの』
「……っ!!」
夢から覚めて手に触れた温もりが温かい。
ここはどこだろう。ひどく懐かしい匂い……春日山城だろうか。
「結、うなされていたが大丈夫か?」
額に当てられた手が私の汗を拭ってくれていた。
「……っ…」
だけど私は心配そうに私の顔を覗き込む謙信様から咄嗟に顔を逸らしてしまう。
心配してくれている事は分かってる。胸がちぎれそうなくらいに嬉しい。
だけど今だけは私を見ないで……
貴方を見ていると涙が零れてしまいそうだから。