第4章 ✼勿忘草✼
§ 結Side §
もう、ここに来るのは何回目だろう。いつか会えると信じていても今日はダメだろうって毎日毎日諦めていた自分がいた。
春日山城跡と書かれた石碑はあっても、目の前に春日山城は無い。
場所は同じでも何もかもが違う。
数日前に雑貨屋で買ったアクセサリーは買った時のまま鞄の中で眠っていた。
「また明日……」
そう思いながら石碑から手を離した時、手の甲にぽつりと雫が落ちた。
(…………え)
突然降り出した雨はあの日のようにすぐに土砂降りへと変わる。
(もしかして…ワームホールが……)
淡い期待を胸に、タイムスリップをした春日山神社へと走る。
「お願いします…謙信様の元に帰してください……!」
大粒の雨のせいで体が直ぐに冷たくなってくる。
鳴り響く雷の音が怖くて目を閉じると、閉じていても分かるくらい明るい光が体を包み込んだ。
次の瞬間、体がふわっと軽くなり、そして急に重くなった。
(…っ……落ちるっ……)
感覚的にそう思ったけれど、体に触れたのは硬い地面の感触じゃない。感じたことのある暖かい温もりだった。
「おかえり、結」
(嘘………)
大きな手が頭を撫でてくれている。見なくても誰か分かる。
涙が零れてしまいそうになるのを必死に堪えるので精一杯だった。
会いたかった
ごめんなさい
大好きです
言いたいことは沢山あるのに頭が真っ白で声が出ない。
ずっと待っていた瞬間がやっと訪れたのに。
「けん…しんさま……?」
「ああ。俺はここにいる、結」
謙信様の顔が見たい。だけど顔を見たらきっと泣いてしまう。
全ては私のせいなのに私が泣いてちゃいけない。
結局何も守れなくて一年も待たせてしまった。謝る事しか出来ない自分が嫌だ。
なのに何故……
「結、ここには俺しかいない。泣け」
何故この人はこんなに優しくて私の気持ちを分かってくれるんだろう。