第4章 ✼勿忘草✼
頭の下から息を呑む声が聞こえた。
そして震えた声で一言
「けん…しんさま……?」
「ああ。俺はここにいる、結」
俺の存在を確かめるかのように背中に腕が回され、ぎゅっと抱き締められる。
「ごめんなさいっ…ごめんなさ…っ……」
今にも壊れてしまいそうな結は、涙を押し殺して謝り続けた。
「全く…どれだけ待たせる気だ」
「ごめんなさい謙信様…私のせいで……!」
(やはりあいつらを城に置いてきて正解だったな)
「結」
結の謝罪を断ち切るように名を呼び、頭を撫でる。
「ここには俺しかいない。泣け」
小さな頭を胸に寄せると、少しだけ躊躇した後に、結は声をあげて泣いた。
「うっ……ぅ…うあああああっ……!…ん…さまっ…謙信様っ…!!」
思えば、結が俺の前でこんなにも泣いたのは初めてだった。結の涙など見たくない。笑顔を守らなければならないと、そう思っていた筈だ。
だが、結が目の前で泣いているというのに嬉しさを感じている。
優越感
独占欲
俺にだけ見せている顔が俺の心を満たしていく。
「ずっと…ずっとお会いしたかったです………」
「すぐに迎えに行けなくて悪かったな」
もう離れまいと袖をぎゅっと掴む結を見て、どれだけ辛い思いをしながら俺を待っていたのだろうと胸が締め付けられた。
「帰ったら皆にも顔を見せてやれ。だたし今は俺の事だけ考えろ」
顔を見せろ、と口づけをすると、結の腕が首に回される。
(ああ…これだ。俺の一番大事な温もりは)
もう結も子供では無いのだから、一年で顔が変わるなんて事は無い。だけど、一年ぶりに見た結の顔は前よりも綺麗だった。
「愛している、結」
結が泣き止んで眠ってしまう頃には、空は雲一つない晴天となり、穏やかな日々がもどってきた事を俺に感じさせた。