第4章 ✼勿忘草✼
「謙信、覚悟!!」
「甘いな。その程度で俺を打とうなど」
また一人、謙信様の剣の前に人が倒れていく。
「俺は結に会うまでは死なん。そして結が隣にいれば死ぬことは無い」
矢が謙信様を避け、刀は弾き返される。
俺はこの光景を見た時、この人は戦に生きる為に生まれてきたのではないかと思った。
「本当は結さんを守るためなのかもしれないな」
隙など無いように見えて、本当はとても脆くて繊細な人。
愛する人を喪う恐怖に触れれば修羅に突き進む人。
謙信様の欠点などそのくらいだった。だが今は違う。
結さんが隣に居なくとも、その帰りを待ってここで戦い続けている。
もうこの人に付け入る隙など無い……負ける事は無いのだろう。
その日の戦も謙信様は前線で兵を率い、見事な勝利を飾った。
「皆、今日は大義であった。好きなだけ飲め」
酒の席に活気のある声が響き、広間は喧騒に包まれた。
「いよいよ明日ですね、謙信様」
「あぁ…そうだな」
あの日から一年…明日はワームホールの出現する日だ。
とは言え確実に結さんが帰ってこれる訳では無い。
タイムスリップした時の衝撃で記憶を失っているかもしれないし、結さんも現代でワームホールが出る場所にいなければこの時代に帰ってくることは出来ない。
謙信様にもそれを伝えたんだけど…
「その時は俺が迎えに行くから問題ない」
って…自信満々に言うからきっと大丈夫なんだろう。
それにそうなったら謙信様一人だと何をするか分からないから俺もついてくつもりだし。
「だけどなぁ…ただの勘なんだが、結は自分で帰ってくる気がするな」
信玄様もそう言ってたし、きっと結さんは帰って来る……皆がそう信じてこの日の祝宴を過ごした。