第4章 ✼勿忘草✼
§ 佐助Side §
それから一年間、謙信様は結さんを待ち続けた。
結さんが突然居なくなったと聞いて、また我を忘れてしまうのではないかと心配する家臣もいた。
謙信様が振りかざす剣は綺麗だった。
己の何かを鎮めるように静かに振りかざされる迷いの無い剣。
かつてのようにただただ一心不乱に戦う謙信様はそこには居なかった。
そして戦から帰れば宴の後も一人縁側でお酒を飲んでいた。
時折、胸の内で開こうとする扉を必死で抑え込むように遠くを見つめる謙信様の顔は寂しそうで、結さんの存在の大きさを思い知る。
きっと謙信様の根幹は変わらない。
だけど結さんが悲しむのがわかっているから修羅にならないだけで、今も辛い思いをしながら憎しみや怒りを押し殺しているんだろう。
「最近の謙信はらしくないな」
「信玄様。やっぱりそう思いますか」
「皆気付いているだろうよ。自分の気持ちを隠すことが出来ない男だからな、アイツは」
「まだ謙信様には伝えていませんが、次にワームホールが出る日が分かりました」
「本当か?」
「はい」
一番辛い思いをしてるであろう謙信様が結さんを信じて待っているならと俺も必死でワームホールの観測を続けた。
結局こんなに時間が経ってしまったが、何とかギリギリで次の観測日を掴むことが出来た。
「結さんが居なくなってからちょうど一年後の日です」
謙信様にそれを伝えると、あからさまに喜びはしないものの、微かに嬉しさを滲ませた声で言った。
「今回ばかりはお前に感謝しなければいけないな」