第4章 ✼勿忘草✼
だがそこで結が何かに悩んでいた事を思い出す。
「ごめんなさい。今は、言えません。でも次会う時に必ずお話します。だからお願い…」
あの時無理にでも聞いておくべきだった。
聞かずとも、結の傍に居るべきだった。
結は俺の事を考えながらも隠し事はしたくないと、男が帰ってからちゃんと話そうとしてくれていたのだろう。
「大方結から別れを告げられた叶多が自分の欲望に抗えずに結を連れ戻したのだろうな」
静かに告げる信長の瞳にも微かな怒りが垣間見えた。
安土の武将たちは皆複雑そうな表情を浮かべている。
きっと悪い奴では無かったのだろう。
(だが…それでも俺はお前を憎む)
斬ろうとは思わない。何をする訳でもない。
だが俺は一生お前を憎んで生きていく。
「佐助。結は帰ってこれるのか」
怒りをなんとか鎮めながら冷静に振る舞うと、それまで静かに話を聞いていた佐助は目を伏せて言った。
「ワームホールの出現は不定期なので完璧には分かりません。ただ…次ワームホールが出るまで一年はかかると思います」
一年。考えていたよりもずっと長い時間だった。
こんなに長い時間だと聞いても安土の者たちは結を守れなかった俺を責め立てる事はしなかった。
「流石に一年後までは正確な日が分かりませんでした。分かり次第謙信様にお伝えします」
「ああ。頼んだ」
「謙信、しっかりしろよ。きっと天女は戻って来る」
「言われずとも俺が必ず連れ戻す」
その日はそれでお開きとなり、春日山城へと戻った。