第13章 ✼碇草✼
謙信様はその日春日山城へ帰ると、信玄様と一緒に広間にお城の全員を集めた。
「上杉と武田の同盟を解消する」
急な言葉に、その場にいる全員が驚きを隠せていないようだった。
「何故だ?!急に同盟解消など……」
「これでは織田に勝つことは……」
この騒動の中、事情を知っている幸村と佐助君だけが静かに何も言わずに待っていた。
「あの、皆さ……」
話を聞いてください、と言おうとすると、謙信様は手でそっと私の口を抑えた。
(謙信様……?)
私の代わりに声をあげたのは、
「待ってください。皆さん静かに。主の話を聞かない家臣が何処にいますか」
景持くんだった。
その言葉に、やっとその場は静まり返ったが、それでも景持くんに対して心無い言葉を掛ける人もいた。
「謙信様、同盟を解消する訳を聞いてもよろしいでしょうか」
「ああ。まずここでもう一つお前たちに伝えなければならない事がある。結を正妻に取ることにした」
隣に座る謙信様が優しく手を握ってくる。
「俺が記憶を失っている間、結は安土城に戻り、織田家に引き取られ信長の妹になった。俺はもう織田信長と戦をする気は無い。それが同盟解消の理由だ」
なんとも簡潔に述べたが、どうして私が信長様の妹になったかを聞く者は誰もいなかった。
.......確かに、この静まり返った雰囲気ではそんな事聞けない。
「上杉と同盟を結んだままでは武田は織田に戦を仕掛けにくいからな。まあ、俺ももう織田に戦を仕掛ける気は無いが」
「では……これから武田と上杉はどうすればいいのでしょうか。私達は御館様についていきます。ですが織田を倒さずして天下統一などできません」
一人の家臣がそう呟いた。
私がここに来た時から信玄様に仕えている方だった。