第13章 ✼碇草✼
「俺もだよ。ここで俺と一緒に暮らそう」
そう言うと、謙信様は再び私を抱き上げる。
「まだ見せたいものが沢山あるんだ」
まだ使われていないからなのか、謙信様が人払いをしたからなのか、お城には私たち以外誰もいなかった。
抱きかかえられたままお城の中へ入ると、中も白を基調としていて、縁側からは色とりどりの花が見える。
「お前は花を見るのが好きだろう。城の周りにも沢山花を植えるつもりだ」
「ありがとうございます。とっても素敵です」
針子部屋も、客間も、全て謙信様が案を出して作らせたのだという。
「この先に一番見せたい部屋がある」
連れてこられた先は、今まで見せてもらっていたところとは違い、人気がなく、近くに部屋もない場所だった。
「俺とお前の部屋だ」
「わぁ……!」
現れたのは、ところどころに金の装飾が施された天守閣だった。
「安土城と同じように天守閣を部屋として使っている。上は寝室になっている」
天守の一番上から見える景色はまさに絶景で、謙信様が治めている領地の城下町と、逆側には自然が広がっていた。
「綺麗……」
「俺が記憶を無くし、お前がいる安土城へ行ったとき、お前は天守閣からの景色が綺麗だと言った」
「覚えてくれていたんですか……?」
「俺がお前の言葉を聞き逃すはずがない。城自体はお前が現代に戻ってしまうずっと前から作っていた。お前との城が持てればいいと思ってな。俺が記憶をなくしている間も設計図通りに作り進めていたらしい」
「本当に全部……私のために……」
「俺は信長程派手好きな訳では無いから装飾は金を少し入れているだが、このほうが落ち着くだろう。気に入ってくれたか?結。本来なら城を作るならお前とも相談すべきだったがどうしても驚かせたかったんだ。すまないな」
「いいえ……謙信様が私のために作ってくれたというだけで本当に嬉しいのに……素敵です、勿論気に入りました、ありがとうございます。謙信様」
自然と笑みが零れると、私の頬に伝う涙を拭いながら、謙信様も目を細めて笑った。
「その顔がずっと見たかった」
謙信様は私の手に光る指輪をそっと撫でた。
——結、この城で祝言を挙げよう