第13章 ✼碇草✼
§ 結Side §
「んっ……」
なにかに抱き上げられたような感覚で目を覚ます。
「結、起きたか。もう少しだから俺がいいというまで目を開けるなよ」
どうやらここは謙信様の腕の中らしい。
寝ている私を馬から下ろしてくれたのだろう。今は謙信様に抱き上げられている。
「はい……」
寝起きではっきりしない意識の中答えると、暫くして謙信様が歩みを止め、私を地面に下ろした。
「目を開けていいぞ、結。前を見てみろ」
最近の謙信様は何か楽しそうだった。そして、何かを隠しているようだった。
この目を開けた先には何があるのだろう。少なくとも、心配するようなことではないと思うけれど……もうプロポーズもされて、指輪ももらって、これ以上何をしようとしているのか見当もつかない。
おそるおそる目を開けた先にあったのは……
「……っ………これ……」
私の眼前に広がるのは真っ白で大きなお城。
多分、安土城と同じくらいの大きさはあるだろうか。
「俺とお前の城だ」
「私と謙信様の……?」
「お前は信長の妹として俺と夫婦になった。その時に信玄とは同盟を破棄したんだ。これからは友としてお前たちを見守っていくと言われた。俺たちが夫婦になれば、他の者たちも簡単に戦を仕掛けることができなくなる」
——だからこれは俺が城主になる城。お前のために作った城だ。お前の望む戦のない世の中にするために。
「…………」
言葉が、出ない。
戦が好きだと言っていた謙信様が、私の望む世界を作るために、ここまでしてくれて
私のために指輪を作り、私のためにお城を建ててくれた。
謙信様は私のためのお城だというけれど、きっとそれだけじゃない。
同盟を破棄したならもう信玄様と一緒には居られなくなるし、当然の結果だ。
それでも私は
「お前のために作った城だ」
と、そう言ってくれたことが嬉しかった。
「けん、しんさまっ……」
上手く言葉が出せなくて、背伸びをして謙信様の唇を奪った。
抱きついて、声をあげて泣いて……
その間ずっと謙信様は私を抱きながら頭を撫でてくれた。
「だいすき……大好きです、謙信様……」