第11章 ✼薺✼
暫くの間、沈黙が流れる。
当たり前だ。私を現代に連れ戻した人と、それを止めようとした人なのだから。
「謙信様、叶多は……
今は私を連れ戻そうなんて思っていない。
そう言おうとした時、叶多が勢いよく頭を下げた。
「本当にすみませんでした……!」
予想外の行動に、私だけでなく謙信様も驚いて固まってしまう。
カップルだらけの中、頭を下げている光景は何とも不思議だ。
「結の気持ちを無視して連れ戻してしまいました。本当にすみません……!」
「……顔を上げろ。お前が叶多だな」
「っ……はい」
叶多にとっては初めてちゃんと聞く謙信様の声。
流石は軍神、と思える威圧感がある声に、私も初めは怖くなってしまった。
「お前を許すことは出来ん。だが想い人の為に覚悟を決められるのは立派な事だ。それに結とも再会できた。勿論戦国の世でな」
「今はこっちに来てるけどすぐ戦国時代に帰らないといけないの」
「そう……なんだ。二人が会えて良かった…」
私たちの再会を喜ぶ叶多の顔は、心の底から安心した顔だった。
それはきっと謙信様にも伝わった。
「お前のその言葉に偽りがないことくらい分かる。だからもう良い。まあ…結と離れていた間は耐えられんほどに苦しかったが」
「それは本当に…すみません……」
張りつめていた雰囲気は、いつの間にか柔らかいものへと変わっていた。
いうでも人の事を考えて行動できる二人が同じ時代に生まれていたら、意外と仲良くなれていたかもしれない。
「結は譲れん。お前も自分の幸せを見つけろ」
「あ、その事なんだけどね。結、謙信様。俺……
——俺、結婚するんだ