第11章 ✼薺✼
「俺の結が他の男に触れられた。これは大事だ」
「謙信様、私は大丈夫です。ありがとうございます」
今にも相手を追いかけて斬りかかってしまいそうな謙信様なだめると、謙信様は不満そうな顔をしながらも首を縦にふった。
「……分かった。確かに時間も無いからな。…して、結。そこにいる女はずっと固まっているが大丈夫なのか?」
「え?」
謙信様に言われて振り向くと、そこには目で何かを訴えてくる私の友達。
謙信様がいない一年間、一緒に働いていた凛だった。
「大丈夫?怖かったの……?」
「いや、そうじゃなくて……どっちが彼氏?いや、どっちも顔面偏差値高すぎだけどさ……」
そうだった。突然ナンパされたものを助けてもらったから、まだ謙信様の事を紹介してない。
「えっと…こっち、です……」
なんだか急に恥ずかしくなってしまって、顔を赤くしながら謙信様を指さした。
「まじ?!うっそかっこよすぎ……流石烏丸さんの告白断っただけあるわ…」
「え」
「何?」
凛がしまった、と思い口を塞いだ時にはもう遅い。
私が他の男の人の告白を断った、という言葉は確かに謙信様の耳に届いていた。
「結さん、そろそろ時間だ」
「行くぞ、結」
謙信様が少し強引に私の手を掴む。
「ごめん……結…」
凛は顔を真っ青にして謝っていた。
「大丈夫だよ。ごめんね、少ししか話せなくて」
「ううん!会えただけでも嬉しいから!……結、これでもう本当に最後なんだよね」
きゅっと袖を掴まれ、顔を上げると、凛の頬に一筋の涙が伝った。
「凛……」
もし、もう一度会える可能性があったなら。
「またね」と言えたかもしれない。
でも本当にこれが最後だからそんな事は言えない。
それに、そんな事を言ってしまえば、例え友達を慰めるための嘘だったとしても謙信様が心配してしまうから。