第11章 ✼薺✼
§ 謙信Side§
佐助に手渡されたのは、佐助が出会った時に着ていたものと同じようなものだった。
「ようふく」と言うらしく、袖も腕が通る程の隙間しかない。
「着たぞ」
着替えて結の前に立つと、結はわあっ、と声を上げた。
「謙信様似合ってます!」
そう言う結もひらひらと舞うようふくを着ていて、可愛らしさがより一層引き立てられる。
「結も似合っているよ」
「ありがとうございます」
「二人の好みが分からなかったから、とりあえず謙信様は白シャツにネクタイ。結さんは白のワンピースにしてみたんだ。気に入った?」
「うん、すっごく!」
「結が喜んでいるなら、そういう事だろう」
「良かった。それでこの後なんだけど、結さんは俺たちと少しだけ別行動でもいいかな?」
「良いけど……何かあるの?」
「佐助と少し約束があってな」
この時代に来る前、俺は佐助に一つの相談をしていた。
その結果、今日はどうしても結とは別で行かなければならない所がある。
結を一人にしておくのは不安だが、今こうして歩いていると本当に戦のない世のようだし、元々ここに住んでいたのだから大丈夫と佐助に説得されてしまった。
「すまないな。少しだけ待っていてくれ」
「大丈夫ですよ。近くにいる友達にも挨拶したかったですし」
「じゃあ……2時間後、ここに集合で」
「うん」
俺はいつものように結のおでこに軽く口づけをする。
すると結は顔を真っ赤にして言った。
「謙信様……この時代ではあまり外でこういう事をするのはダメです……」
「そうなのか?」
「戦国時代がいいって訳じゃ無いですけどね。ここにいる間は人目に付く場所で抱きしめたり口づけしたりするのは禁止です」
「不便な世だな」
「時間もないので行きましょう、謙信様」
「あぁ」
またここで落ち合う約束をして、俺と佐助はとある場所へと向かった。