第11章 ✼薺✼
謙信様と話をしていると、神社の宮司さんがこちらに寄ってきた。
「この時期にご参拝なんて珍しいですね。……それに格好も。上杉謙信公にそっくりです」
宮司さんが驚くのも無理はない。だって上杉謙信本人なのだから。
「そっ……そうなんですね。実はこの近くのお祭りに来ていて……」
タイムスリップした今日はちょうど何かのお祭りをしているようで、遠くに提灯が見えた。
「ああ、なるほどそれで。そっくりで驚いてしまいました。なんだか上杉謙信公に会えたようで嬉しいです」
にこっと笑う男性は黒髪に眼鏡を付けていて、謙信様とは真逆のタイプに見えた。
(現代でも真逆のタイプの人からも好かれる謙信様って凄いな……)
すると、それまで口を閉ざしていた謙信様が宮司さんに話しかける。
「お前は上杉謙信公をどのように思っている?」
「そうですね……私は上杉謙信公の末裔で、代々この寺はこの家系が宮司を務めているんですが、皆謙信公を尊敬していましたよ。勿論私も」
「末裔……」
という事は、500年もの時をかけながらも、謙信様と宮司さんの血が繋がっているということになる。
「戦好きであったと言われながらも、命をないがしろにせず家臣を大切にしたと伝えられています。それから……」
「この先を聞くのは止めておこう。未来を知ってしまうのはつまらん」
「どういう事ですか?」
宮司さんが首を傾げた時、遠くから私たちを呼ぶ声が聞こえた。
「残念だがもう時間のようだ。話し込んでしまってすまないな」
「いえ。私も楽しかったですから。お祭り、楽しんでください」
優しい笑顔を向けてくれた宮司さんは、私たちが見えなくなるまで見送ってくれていた。