第11章 ✼薺✼
「春日山城……跡……」
無言で石碑を見つめる謙信様の瞳に春日山城は写っていない。
歴史の中では、春日山城は謙信様の次の代で廃城になっていた。
そして、現存していない。
「……そうか。あの城もやがては役目を終えるのだな」
そう言って石碑を見つめる謙信様はどこか悲しそうだった。
「謙信様。お気持ちはお察ししますが、今は悲しんでいる暇はありません。現代を楽しむために来たんですから」
「佐助君……」
「……そうだな」
「とりあえず二人のこの格好をどうにかしましょう。流石に目立つ」
佐助くんは戦国時代に来た時に着ていた服をまだ持っていたようでそれを着てきたけれど、私はタイムスリップした場所が燃え盛る本能寺だった。
結局その時に着ていた服はところどころ焼けたり破けてしまっていて、もう着る事は出来なくなってしまった。
「とりあえず謙信様と結さんはこの近くに居て。俺が服を買ってくるから。人目を気にしながらじゃゆっくり服も選べないだろうから」
「ありがとう、佐助君」
佐助君が服を買いに行ってくれている間、私は謙信様と二人で春日山神社へ行くことになった。
「ここに俺が祀られているのか?」
「はい。謙信様は現代でも凄い人なんです」
まさか祀られている人と一緒にここに来ることになるとは思わなかった。
謙信様と離れていた頃の私は、毎日毎日ここに来てきっと明日は謙信様に会える、と願っていたのが懐かしい。
拝殿へと入ると、そこは参拝シーズンでは無い事もあって私たち以外誰も居なかった。
「二人で絵馬でも書きますか?」
「祀られているのは俺なのだろう?俺が俺に祈ることなど無いな」
「あ……そっか」
そういえば、と思い声を出すと、謙信様は小さく笑った。
「まあ所詮は迷信だ。神は居ると思う……が俺は生憎お前以外の願いを簡単に叶える事はしない。俺は神に向いていないからな」