第11章 ✼薺✼
§ 結Side §
「結さん、準備できた?」
「うん、ばっちり」
「じゃあそろそろ行こうか」
謙信様に現代を見せられる日が来るなんて思っても見なかった。
謙信様は、戦どころか刀を持つことすら無い時代の話を聞いては「つまらない」と言う。それでも、どこか楽しそうに私の話を聞いてくれていた。
「楽しみですか?謙信様」
「お前の事を知れるのは何だって嬉しいよ」
謙信様の腕が私の腰に回される。
流石に500年後に刀を持っていけるはずもなく、佐助君が謙信様を説得して、姫鶴一文字は信玄様に預ける事にした。
「もう少ししたらここにワームホールが出るはずです」
ワームホールが出ると予測されている場所に着くと、空が直ぐに雲に覆われ初めた。
そして、ぽつり、ぽつりと雨が降り出し、やがて大粒の雨へと変わっていく。
「結、おいで。濡れてしまう」
「……っ、はい…」
謙信様の羽織に包まれて、謙信様に抱き寄せられて……
私の体は謙信様の匂いでいっぱいだった。
「そろそろです。謙信様は離れた場所に行かないように俺の手を握っていてください。結さんも、謙信様から離れないで」
「うんっ……」
雷が鳴りだすと、鼓動が早くなる。
離れないと分かっていても、無意識に恐怖心を抱いてしまい、私は謙信様の体をぎゅっと抱き締めた。
それに気づいたのか、謙信様も私の体を強く抱きしめ返してくれた。
「安心して目を瞑っていろ。お前の事は俺がしっかり掴んでいる」
ドンッ!!!!!!!!!!
大きな音と共に雷が落ちる。
目を瞑っていても分かるくらいに眩いが光が、私たちを包み込んだ。
「っ…………」
しばらくして、静寂が訪れる。
大丈夫。謙信様の温もりは消えていない。今もずっと私の体を抱き締めてくれている。
「結。目を開けていいぞ」
その言葉に促されるように、ゆっくりと目を開けると……
「あ……ここ……」
忘れはしない。私が謙信様と離れ離れになっている一年間を過ごした場所。
私たち三人の目の前には、あの日と同じように、春日山城と書かれた石碑があった。