第10章 ✼(黄)水仙✼
§ 信玄Side §
「お前が結と恋仲になった時から、もう俺は信長を殺すことなんて出来なかった」
「……っ…」
今同盟を解消しようとも、しなくても俺はきっと信長を殺せない。
「俺はお前の事を勝手に友だと思っている。友の恋仲が悲しむと分かっていて、あいつを殺すことなんてできない」
俺を見つめる謙信の瞳は揺れていた。
同盟を組んでから、謙信はずっと俺の信長に対する憎悪を目にしてきた。
……明確な殺意も時には感じたかもしれない。
「俺だって簡単に諦めきれたわけじゃないし、今だって憎いさ。でもな、結がそれを忘れるほど楽しい日々を俺にくれたんだ」
たった一人の女で、と思うかもしれない。
だが、結はこの城で沢山の笑顔をくれた。
戦で仲間を失う度、人知れず泣いている家臣たちが、結がいる間は何も考えず笑っていた。
…………それは、謙信も。
過去を知っていたからこそ、謙信の幸せそうな顔を見て
(結と出会えてよかったな)
そう思えた。
「結と出会った事に後悔はしていないか」
「当然だ。後悔なんてないさ。出会えてよかったと思ってる」
謙信が結に向けるものとは違うけれど、俺も家族のような意味として結の事が好きだ。
関わりすぎて俺の大きな目的が達成できなくなっても、結と出会えたことに後悔は無かった。
「……そうか」
「辛気臭い話は終わりだ。せっかく結と夫婦になるんだろ?」