第10章 ✼(黄)水仙✼
「……あぁ。そうだな」
それ以上は何も言わず、黙り込んでしまう謙信。
そんな謙信に、俺は一つの提案をした。
「だから。これからは友としてお前と結を見ていたい」
「友……」
周りが皆的だった謙信にとって、友と呼べるものは今まで一人も居なかったかもしれない。
佐助とも、どれだけ仲が良くとも関係性は君主と家臣。
だけど、俺の中で謙信は間違いなく友と呼べる存在だった。
「まあ……悪くない」
「素直じゃないなあ。そんなだと結に嫌われるぞ?」
「結にこんな態度をする訳ないだろう。貴様だけだ」
「俺だけ、ね。友の特権とでも思っておくよ」
いつもと変わらない会話だった。
違うところがあるとすれば、明確に「友」という言葉を口にしたことくらい。
だが、その時見た謙信の笑顔は俺が見た中で一番晴れやかで、心からの笑顔だった。
——結だけじゃなくて、俺はお前に出会えたことにも感謝しているよ。一度は愛する者を喪い、何かをずっと探すような瞳をしていたとしても、戦で悠然と刀を振るうお前は確かに美しかった
そんな言葉を言うのは流石の俺でも恥ずかしい。
だから、まだ胸の中でとどめておこう。
きっと俺が言わずとも、隣にいる女が既に伝えてくれているだろうから。