第10章 ✼(黄)水仙✼
§ 結Side §
「同情なんていらないと思うからそんな事しない。でも、ごめんなさい。どうしても許すことが出来ない。……さようなら」
自分で言った言葉なのに、泣きそうになってしまった。
あの時の芝姫様の絶望にまみれた顔が頭から離れなくて、
(あぁ……私が今から殺すも同然だ)
そう思ってしまった。
私が許せていれば、芝姫様は権力は無くとも普通の女の子としてこれからも生きていたかもしれない。
そんな未来を私が潰してしまった。
みんなの前では我慢していたけれど、謙信様と二人きりになると、さっきまで出来ていた我慢が出来なくなる。
「お前が何を言おうとも、どうするか決めるのはあの魔王だ。お前のせいではないよ」
確かにそうかもしれない。
でも、私は自分への罪悪感に苛まれながらも結局芝姫様を許すことが出来なかった。
信長様のところに行くのなら、ただではすまない。
「でもっ……でも……私、芝姫様ともう会うことがないと思ったら安心してしまいました。最低です……っ……」
優しいふりをして全然そんなことない。
偽善者だ。
自分の事が気持ち悪くてしょうがなかった。
「結。確かにお前は優しすぎるかもしれない。だが絶対にそれを変えようとはするな。俺はお前のそんなところも愛している」
今だって、自分の罪より謙信様とずっと一緒に居られることに対する安堵の方が大きい。
でも、ここでどれだけ泣いても変わらない。
例えあの時に戻れたとしても、私は同じ言葉を掛けただろう。
ならば泣いて謙信様に慰めてもらうだけじゃなくて、自分の言葉に責任を持たなければならない。
(だけど今日はもう疲れちゃったな……)
謙信様が隣に居てくれている安心感からか、張りつめていた糸が切れて泣き疲れてしまった私がはそのまま寝てしまった。