第10章 ✼(黄)水仙✼
「結」
部屋に戻ると、結は力が抜けたようにその場に座りこんでしまった。
「謙信様……私……」
かたかたと震える体を抱き締めると、結は俺の衿を掴んで泣き出してしまった。
「私が許せていたら…っ…芝姫様が死ぬことも無かったかもしれません……っ……」
「お前が何を言おうとも、どうするか決めるのはあの魔王だ。お前のせいではないよ」
「でもっ……でも……私、芝姫様ともう会うことがないと思ったら安心してしまいました。最低です……っ……」
人の前では強く振る舞っていても、俺の前ではやはり年相応の女だ。
華奢な体に抱えている物が大きすぎる。
それでも、この時代で生きていくため、俺の隣にいるために強くあろうとするその姿にまた惹かれる。
「自分が泣くことになると分かっていても、許すことが出来なかったのだろう?」
「…っ……はい……」
「ならばそれでいい。俺であればその場で斬り捨てていたからな。お前は優しい」
何も考えずに人の命を奪ってきた俺に比べれば、泣くことができる結は十分優しいだろう。
俺であれば、自分の命だけでなく愛する者の命まで脅かした存在に情けを掛ける事は絶対に無い。
「結。確かにお前は優しすぎるかもしれない。だが絶対にそれを変えようとはするな。俺はお前のそんなところも愛している」
「謙信様は私に甘すぎます……」
「嫌か?」
「……そんな事、無いです……」
そのまま結が泣き止むまで背中をさすっているうちに、結は寝てしまった。
やっと全てが終わった。
目は腫れているけれど、安心したように眠る結を見て俺も安心したのか、そのまま眠りに落ちてしまった。