第10章 ✼(黄)水仙✼
「なんで……どうしてそこまで……やりすぎよ……」
芝姫はその場に座り込んでしまった。
俺の正室から一転、平民以下となるとは誰も思わない。
「お前が結の命を狙っていたのは知っている。人の命を狙っておいてやりすぎとはどういう事か分からんな」
「……っ…」
今度は、結は止めなかった。
静かに、俺にしがみつきながらその先を見守っている。
明智は芝姫の顎を掴んで上を向かせると、笑みを消して言い放った。
「結は立派な姫だ。魔王はたいそうご乱心だぞ。分かっているな」
その顔から感情は一切読み取れない。
……だが、心なしか怒りが見えた。
流石は第六天魔王の家臣だ。
目の前で女が涙を流して命乞いをしていても動じない。
それにさえ冷たい視線を送る。
「上杉謙信よ。この女は安土に持って帰ってもいいか?俺の主が会いたがっていてな」
「好きにしろ。その女に用は無い。それと伝言を一つ」
——出来るなら、死ぬよりむごい一生を。
「確実に伝えておこう」
「嫌……嫌よ!!謙信様!結様も!許して!!!」
分かりやすい命乞いだ。
だが俺はこの女を許すつもりはない。
「結様、だと?気安く呼ぶな。お前と会う事は一生無い」
本当はここで腕の一本でも切り捨ててやりたいところだが、血は結に見せられない。
「では頼んだぞ。行こうか、結」
歩き出す直前、結は芝姫に小さく語り掛けた。
「同情なんていらないと思うからそんな事しない。でも、ごめんなさい。どうしても許すことが出来ない。……さようなら」