第10章 ✼(黄)水仙✼
「ん…っ……?!」
「な……っ……!」
力なく俺の胸を押す結を制して、抵抗しなくなるまで口づけし続けた。
口を離すと、立てなくなってしまった結が倒れ込んでくる。
「はあっ……はっ……」
「おっと……」
芝姫を見ると、顔を真っ赤に染めてこちらを見ていた。
「俺の許嫁は愛らしいだろう?お前が勝てるとは到底思えんな」
結を横抱きにして、額に口づけた。
いつものように、そして芝姫に見せつけるように。
効果はてきめんだったようだ。先ほどの余裕はとっくに無くなっていた。
「一度私を正室にすると言ったのは事実よ!他の女にすると知れたら父上が黙っていないわ!」
ならば戦をすればいい……だけの話なのだが戦は結が嫌がる。それも自分の為となると尚更だ。
「お前の父か。最後に会ったのはいつだ?」
その場に響きわたる声は聞きなじみのないもの。
後ろを振り返ると、そこには何を考えているか分からない笑みを浮かべた男が立っていた。
「光秀さん?」
「久しいな、結。見せつけてくれるではないか」
「……っ。からかうのはやめてください……どうしてここに?」
「お前が何も持たずに安土を発ってしまったしまったものだからな。針子道具と着物を届けに来た」
少し結をからかった後に、そのままの笑みを芝姫にも向ける。
「で、最後に会ったのはいつだ?お前は湯治だと言って遊び惚けているらしいな。その間に父がどうなったかなどしらないだろう」
「何が言いたいの……?」
「結は正式に信長様の妹になってな。信長様が妹の命を脅かした者は潰せと」
「まさか……!」
芝姫の顔がどんどん青ざめていくのが分かる。
ここまでくればもうその先は聞かなくても分かった。
「お前の父の首とその土地は織田軍が貰った。今日ここに来たのはその後始末の為でもある」
後始末……つまり残党となった芝姫を殺すため。
「地位も無い。帰るところも無いお前が上杉謙信に正室にしてもらう?身分をわきまえろ」