第10章 ✼(黄)水仙✼
「結、俺の馬でもいいか?」
「はい。謙信様の馬がいいです」
さらさらの白い毛を持つ馬の頭を撫でると、白馬は私に顔を寄せてきた。
「ふふっ、くすぐったいよ。よろしくね」
謙信様は戦好きだけど、私を戦に連れて行くことは絶対にない。
だから謙信様の今に乗ることもほとんど無かった。
「乗せるぞ。馬に乗ったらしっかり手網を握っておけ」
謙信様に抱き上げられて、なんとか馬の上に乗る。
久しぶりに吸う外の空気は、近くに咲く花の匂いを私に届けてくれた。
そこに、馬に乗ってきた謙信様の匂いが重なる。
私が落ちてしまわないように、後ろから片手で私のお腹を支えてくれている。
私を支える腕に両手で巻き付く。
ふらつく体が落ちてしまわないように、という理由が半分。
後の半分は、少しでも謙信様の体温を感じていたいから。
「行くぞ。体が辛くなったら直ぐに言え、我慢はするな。分かったな?」
「はい」
「俺は少し離れた所から付いていきますね」
子どもをあやすような優しい手つきで頭を撫でてから、謙信様は手綱を引いた。
二人で散歩でもしているかもようにゆっくり、ゆっくりと二人で景色を見ながらたわいもない会話をして進む。
今までの後悔や懺悔、悲しい事は帰ってからちゃんと向き合って話すものだ。
この時間は、「咲いている花が綺麗」「こんなとこに子猫がいる」そんな話をする時間でいい。
夜は宿に寄りながら、数日かけて越後まで戻ってきた。
「もうすぐ着くな。……すまない、結。少しの間だけ目を瞑っていてくれ」
「……?分かりました」
言われた通りに目を瞑る。
誰かが襲ってきている気配も無ければ、何かが起きている様子も無かった。
「もう目を開けていいぞ」
目を開けた先に会ったのは、久しぶりに戻って来る春日山城。
「さっきのは何だったんですか……?」
「もう少ししたら分かる」
私が一人もやもやしているうちに、謙信様は私を抱えて馬から降りる。