第10章 ✼(黄)水仙✼
§ 結Side §
久しぶりに会った貴方を見て、泣きだしそうになってしまった。
この人は今から他の女(ひと)の所に行ってしまうんだ……そう思って。どうしてここに居るのか考えるのを止めた。
だから、すごく驚いたの。
──俺の妻になってほしい。勿論、正室として
これは誰に向けた言葉?そんな事を思った。
でも、いまこの部屋にいるのは二人だけで、色の違う二つの双眸が見つめているのは私だった。
あぁ……。戻って来てくれたんだ。
私の大好きな謙信様。
やっと、やっと私を思い出してくれた。
乾いたはずの涙は自分でも気付かぬうちから、ずっと流れ続けていた。
憧れていたものとはちょっと違うけど、予想していたシチュエーションでは無いけれど、プロポーズまでされてしまった。
私でいいのだろうか。謙信様と結婚するということは、沢山の命を預かるのと同じ事だ。
そんな私の不安を謙信様は全て包み込んでくれた。
忘れていた温もりを、体が思い出していく。
不安を全部取り除いて、幸せだけで満たしてくれる。
(愛しています…………)
正直、ここまで弱りきった自分の姿は見られたくなかった。
だからその言葉を口にするのも恥ずかしくて、言いたくても涙のせいで喉でつっかえてしまうから。
言葉の裏に、隠した。
「月が綺麗だな」
「月はずっと綺麗でしたよ」
貴方は知らずに言ったかもしれないけど……私の言葉には確かな意味が込められていた。
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月が綺麗ですね
──貴方を愛しています
月はずっと綺麗でしたよ
──ずっと前から愛していました
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