第10章 ✼(黄)水仙✼
宙を彷徨う結の手に指を絡ませる。
「俺が修羅になろうとしたらお前がこうして繋ぎとめてくれる。お前自身が強くなれたと感じるその日まで、二人で手を取って守っていけばいい」
願わくば、結が強くなってからも、ずっと。
生涯二人で乗り越えたい。
「後からまたちゃんとした言葉を伝えよう。今日は思わず口にしてしまったが……結を妻にしたいとはずっと考えていた」
「……嬉しいです。もっと沢山言いたいことがあるのに、こんな事しか言えません」
泣きながら笑う結はこの世の誰よりも美しかった。
「私、特別な物なんて何も持ってませんよ?本当に良いんですか?」
「何を言っている。俺の結はこんなにも強くて美しいというのに」
俺からの言葉を期待するように、本当に自分で良いのかと聞いてくる姿が愛おしい。
「お前はここからの景色が好きか?」
「はい。とても綺麗だと思います」
「……そうか」
そろそろ朝日が昇る。
日の出前の月は、役目を終えるその瞬間が一番輝いていた。
段々と明るくなってきた空に照らされて、結は微笑んだ。
「月が綺麗だな」
外の景色を気に留めた事はほとんど無いが、今日の月は綺麗だと思えた。
それを聞いた結は小さく笑った後に呟く。
「月はずっと綺麗でしたよ」
「……どういう意味だ?」
「秘密です」
この意味を知らなくとも、目の前に愛する者の笑顔があるなら、それは知らなくても心配ないものだろう。
それから暫く、俺達は月を眺めていた。