第10章 ✼(黄)水仙✼
「私も……許されるのなら…っ……もう一度貴方に愛して欲しい……っ」
そっと、結の心に触れるように手を伸ばす。
抱き締めようとして、手を止めた。
抱き締めるだけではこの気持ちは伝わらない。
「結……俺を見ろ」
顎を上げて唇を奪う。
言葉で言っても足りないから……この熱を感じて欲しい。
「んっ…………」
「他の男の部屋で盛る気は無い。残念だが、続きは帰ってからにしよう」
この城の者には悪いが、今日はこの城に泊めてもらおう。
すると、結は力ない腕で俺の事を抱き締めてきた。
「……」
「結、可愛い事をするな。今から攫ってしまいたくなる」
「それは、困ります……信長様にも家康にも挨拶してないし……」
「他の男の名前を出すのは禁止だ」
結の口に人差し指を当てると、結は直ぐに顔を赤くした。
「なら、少し話をしませんか?ここなら誰も近づかないですし……今聞きたいことが沢山あるんです」
「ここは信長の部屋だろう。いいのか?」
「先程出て行くときに、今夜は帰ってこないから好きに使うといいって言ってくれました」
これも信長の気遣いのうちか……。敵に気を使われるのは初めてだ。
「ここからの景色はとっても綺麗なんですよ」
結に言われて外を見ると、そこには夜明け前の幻想的な月があった。
(もうすぐ夜が明けるのか……そんな時間になっていたとは気付かなかったな)
もうすぐで役目を終える夜空と、次に昇る朝日の微かな橙色に照らされて、月はどこか明るい印象を持っていた。
……まるで、俺の心のように。
先の見えない闇の中に居る俺を、結が導いてくれるように、少しずつ空は明るい色に染まっていく。
結にとって俺もそんな存在でありたいと願った。