第10章 ✼(黄)水仙✼
首には白い布が巻かれ、腕は細くなり、元々白かった肌は更に儚さを増していた。
「……っ…謙信様……」
どれくらい時間の時間そうしていたかは分からない。
互いに言葉を掛けるわけでもなく、静かに見つめ合っていた。
結の目を見てすぐに気づいた。
その瞳に俺は映っていない事。目に光を宿していない事に。
二人の間には確かな距離があって、そこには見えない壁がある。
俺と結が見ている景色は違うものだと感じた。
「……芝姫様を正室になさるのですよね。おめでとうございます」
淡々と告げられる言葉に、胸が苦しくなった。
これを聞いたとき結はどんな気持ちだっただろう。
誤解だとすら答えてやれない自分を呪った。
だからこそ結に伝えなければならない。
「俺が妻にするのはお前だけだよ」
「え……?」
もっとちゃんとした場所で言いたかったが、この状況では仕方がない。
どうしても今自分の気持ちを伝えたかった。
「俺の妻になってほしい。勿論、正室として」
「っ…………」
結の目に光が戻っていく。
「最も忘れてはならない存在を忘れていた。傷付けた」
「私は貴方から逃げたんですよ……?」
「そうさせたのは俺だ。許されるのなら、もう一度俺の元に来て欲しい。今度はもう二度と離さないから」
結の頬に一筋の涙が伝った。
それはまるで初めて流した涙のように止めどなく、だけど静かに流れていく。
「私は貴方から逃げてしまったうえに死のうとしました。何一つ約束を守れなかった……っ……」
俺達は互いを責める事をしない。
だから自分を責めすぎてすれ違ってしまうこともある。
俺はそのすべてを包み込んであげたい。
何事も人のせいに出来ない結の事を知っているから……結が壊れてしまわないように俺が隣で支えたい。
「それでも俺はお前を愛しているよ。結、返事は?」
「……っ……私は……————