第10章 ✼(黄)水仙✼
「ほう……そこまでの覚悟があるのなら、今の結に会わせても良いかもしれんな」
信長の目が、俺を見定めるように細められる。
「結は今俺の部屋で住んでいる。訳は家康から聞くと言い。結の体の事を一番知っているのは家康だからな」
「徳川家康。教えてくれ」
微かに、翠色の瞳が揺れた。
「結はこの城に帰って来てから全く笑わない。食事も取らない。お前の元から逃げてきた罪悪感に押しつぶされてる」
あの愛らしい笑顔すらも俺は完全に奪ってしまったのか。
それなのに、俺から逃げたと自分を責めて塞ぎ込んでしまうとはどこまでも優しい女だ。
俺は皮肉にも、結のそんな所も愛していた。
「ここから先は出来ればお前には一番聞かせたくない。それでも、聞く?」
「……聞こう」
それからしばらくの間、徳川家康は考えていた。
そして、意を決したように口を開く。
「結はあんたが他の女と祝言を挙げると聞いて、自らの命を絶とうとした。短剣で……自分の首を、切った」
「な……んだと……?」
急に、周りの音が遠くなった。
結が自ら死を望んだ?
それだけは無いと勝手に思い込んでいた。
俺が結と共に生きる事に悩んでいた時、結は
自分は絶対に死なない。だから傍に置いてほしい
そう言ってくれた。だからこそ、結が自ら命を絶とうとするなど考えもしなかった。
「その時結はもう衰弱してたから、その力では首を完全に掻っ切るまではいかなかったけど……結は自分が死ねなかったことを心の底から後悔してた」
奥歯をぎりっと噛む音が聞こえる。