第9章 ✼赤熊百合✼
「ならば教えろ。俺の幸せとは何だ」
「それは……」
目の前の男たちは、またその目をする。
「お前たちが何を知っているのかは知らないが、何を明かす気もないなら俺の意志が揺らぐことも無い」
すると、締まっていた襖が開かれ、張りつめた空気の中に爽やかな風が吹き込んだ。
「いいんじゃないか?謙信自身が決めた事なら」
「信玄?」
最近のコイツは妙に間が悪い。
俺が誰かと大事な話をしている時に限って、どこからともなく現れる。
監視されているようであまりいい気はしなかった。
「ですが、信玄様……!」
「根も葉もないことならまだしも、謙信が認めてるんだからいいじゃないか。ほら、帰るぞ」
信玄は、有無を言わさずその場にいた全員を部屋の外へ出してしまった。
「じゃあなー謙信。俺は反対はしないが、賛成しているわけでもない。正直あの女性は俺から見てもあまり魅力的ではないからな」
「お前が女を落とすところなんて初めて見たな」
「顔じゃなくて内面の話だよ。よく考えて決めろよ、謙信」
吹きぬける風が髪をさらった。
自分でも思う。俺は最近おかしい。
好きでもない女を正室にするような男だっただろうか
何かを隠されて、それを追求しないような男だっただろうか
もう何も考えたくないのだ。
心にぽっかりと空いた穴はあまりにも大きくて、かえって穏やかな気持ちになってしまう。
「……もう、疲れた」
「それでいいんですか?」
独り言に答えたのは俺よりも少し高めの声。
(今日は間が悪い奴が多いな)
「何が言いたい?お前もどうせ俺が知りたい事を教えてはくれんだろう」
「人に言われて思い出すようじゃそれまでですからね」
「景持。お前はそこまで肝の座った男だったか?俺はお前の主だ」
「うーん……想い人に幸せになってほしいんですよ、俺。謙信様が全てを思い出してくれれば幸せになれるかもしれないんで」
「答えになっていない」