第9章 ✼赤熊百合✼
思えば、ちゃんと信長様の目を見るのも久しぶりだ。
吸い込まれるこうな瞳に見つめられただけで、一筋の涙が頬を伝った。
「結」
信長様の腕が伸びてくる。
優しく頭を撫でられて暖かい温もりに包まれても、身体に力が入らず信長様の背中に手を回すことも出来ない。
ただ、涙だけは止めどなく溢れてきた。
「辛かったであろう。だが俺はお前を見殺しにする気などさらさらない」
「のぶ、ながさま……」
「頼む。もう二度と自らの命を断ち切ろうとするな」
「あんたが何をしても俺が死なせない」
きっとこれからも私は死んでしまいたいと思うだろう。
すぐに元気になることなどできないだろう。
だけど、天守閣から見える月をもう少しだけ見ていたくて、私は小さく頷いた。
「はい……ごめんなさい……信長様、家康、ありがとうございます」