第9章 ✼赤熊百合✼
§ 結Side §
その日の夜はいつもより暗く感じた。
どんどん自分の頭がおかしくなっているのに気づいてはいたけれど、もう何も考えたくなかった。
(外の空気が吸いたいな……)
何とか壁を伝って外へ出て、人がいない場所の縁側へと腰を下ろす。
久しぶりの外の空気と、綺麗な月を見ていると、女中さんの声が聞こえてきた。
「ねぇ、聞いた?謙信様の噂……」
「えぇ。あれ、本当らしいわよ。」
私に気付いていない女中さんは、立ち止まって話に夢中になっている。
(謙信様の噂?)
もしかしたら何か思い出してくれた?
それとも怪我を負ったとか……?
盗み聞きは良くないけれど、どうしても気になってしまい聞き耳をたてた。
「まさか謙信様が芝姫を正室に取るなんてね……」
「あの女、結様を殺そうと陰謀を立てていた女でしょう?どんな手を使ったのかしら」
「え……?」
(謙信様と芝姫が結婚……?)
──ケンシンサマガ
ホカノオンナノモノニ
ナッテシマウ
そう思うと、私はその場を駆け出していた。
「何……?!今の音……誰かいた……?」
女中さんの声が遠くなる。
立つことさえままならなかった体は、全速力で自室へと戻っていく。
「……はぁ、はぁ……」
箪笥を引き出すと、そこには護身用の短剣が入っていた。
「やだ……そんなの見たくない……」
謙信様が芝姫と一緒にいる姿なんて見たくない。
あの二人が並ぶ姿なんて見たくない。
こんなに辛いなら……何も出来ず愛した人にも思い出して貰えないのなら
──死にたい