第9章 ✼赤熊百合✼
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§ Another Side §
あの上杉謙信が正室を取る……すぐにそんな噂が立った。
領民達も、大名達も驚かなかった。
「きっと噂されていた姫君と祝言を挙げられるのですね……」
結の名前を知らない者達は、きっと結の事だろう、と思ったのだ。
城下はお祝いムード一色なのに、春日山城の者達は違った。
女中も、針子も、家臣も猛反対。
当然だろう。城の者達は芝姫が生粋の性悪女だと知っている。
信玄は謙信に聞いた。
「勝手な噂などではなく、本当にお前が芝姫を正室にとると決めたのか?」
「ああ。だが、俺たちの間に愛などという面倒な物はない」
「……そうか。ならいいんじゃないか。皆も聞いただろう。これは謙信自身が決めたことだ、口を出すな」
主に命令されて、特に猛反対していた女中達も何も言えなくなってしまう。
ただ、その目には確かに不満の色が見えていた。
そして、噂を広めたのは勿論この女。
「あぁ嬉しい……やっと私のものになってくださる……子孫を作るためなら、愛はなくとも私を抱いてくださるでしょうか……」
真っ赤な紅を引いた唇が弧を描く。
「あの女にもそろそろ噂が届くかしら?それとも大切にされすぎて隠されてしまうかしら……」
芝姫は、安土にも自らの噂を立てていた。
安土の民は、何故結様では無いのか……と戸惑ったが、逆にそのせいで噂は一気に広まってしまった。
そして、毒は遂に安土城へも回りはじめる……
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